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珈琲の酸味

香甘苦渋漱

香甘苦渋漱(こうかんくじゅうそう)。
茶道の世界で上質のお茶は5煎まで楽しめるという。
香味、甘み、苦味、渋み、漱(さわやかさ)。
これらの味覚を楽しんでいく。

私はこの言葉が好きで、珈琲に通ずる感覚を覚えます。
ただし、珈琲の場合は液体を口に含んだときにこの五つの味覚が段階を得て感じゆくもので、最初口に含んだ瞬間から舌の上を通っていき、のどを通り過ぎ、その液体の残り香が鼻孔をかけ上がってくる。それはカップの中の珈琲が常温へと下がっていっている段階でも変化していきます。
・・・たとえ珈琲が冷たくなってしまっても。

この「香甘苦渋漱」を私の作り上げる珈琲にはどの段階でも感じさせたい。至高でありながら中庸。
私が目指す最高の珈琲の形です。

しかし、味覚とは不思議なものです。人の見た目が違うと同時におそらく舌のカンジカタも人それぞれ。成分などはロジックである程度数値化されます。でも感じる人間の感性は非常に曖昧で人によって実に様々、アナロジックです。しかし共通認識は存在します。今、分かっている範囲での科学的側面(ロジック)と非科学(アナログ)から珈琲の美味しさを探ってみようと思います。

お客さまから「すっぱくない珈琲ありますか?」と聞かれる事があります。大丈夫です。当店には酸味を感じる珈琲はありますが「すっぱい」珈琲はありません。
この、珈琲における酸とはなんでしょうか?英語に酸味を表す単語にAcidity(アシディティイ)があります。「すっぱい」はSour(サワー)。どうも珈琲にかんしてこの2つは混同されがちです。まずこの珈琲の正体を探る前にpH(ペーハー)のお話を..。
pHとは、水溶液の性質をあらわす単位です。
普通の水はpH7、これより低い方を酸性、高い方をアルカリ性と呼びます。珈琲のpHは5〜6、水道水はpH6.5付近、レモンはpH2.5付近、井戸水は7〜8付近です。
珈琲はやや酸性の飲み物という事が判ります。
「じゃあアルカリ水で珈琲を抽出するとアルカリ飲料になるの?」という声が聞こえてきそうですが、残念ながらpH7以上10以下のアルカリ水で抽出しても珈琲のpHは5〜6です。
「でも、味が変わるのはなんで?」これはおそらくpHによるクラスター(この場合、水の分子サイズと御考えください)の変化で、クラスターが小さくなるという事は細胞への浸透力が強く抽出しやすい味、出にくい成分に分かれるからだと考えられます。ちなみにpHが大きくなる程酸味を打ち消す効果が強くなります。珈琲の酸味は焙煎により作られます。これは珈琲の成分であるクロロゲン酸類が焙煎により分解。珈琲の酸味主成分であるキナ酸が発生するからです。抽出液が冷めて酸味が増していくものとそうでないものがあります。これはキナ酸の成分の状態で酸味の感じ方が変わります。キナ酸には2つの種類があり、酸味を示すものと、酸味に繋がる部位が隠されて酸味を示さないものがあり、後者が時間と供に酸味を示しはじめる為、どんどん酸味が増していくのです。

2010年1月掲載


文献・書籍

《オール・アバウト・コーヒー》
(ウィリアム・H・ユーカース:UCC上島珈琲株式会社監訳・TBSブリタニカ)
言わずと知れた歴史的名著。現在でも通じる殆どの事が載ってます。必読。
英語版はネットで公開されています。

《コーヒーの辞典》
(日本コーヒー文化学会編:柴田書店)
本書は「辞典」という形ではありますが、本来の辞典として使用は使いにくいかもしれません。しかし、専門的、膨大な知識の宝庫たる本書はまるでパズルの鍵の様な存在です。

《コーヒー辞典》
(伊藤博 著:保育社)
2004年1月に惜しくも他界された伊藤博先生のコーヒー辞典。コーヒーと文化を通じての業界での業績には頭の下がる思いです。

《コーヒーおいしさの決めて》
(伊藤博 著:保育社)
コーヒーの入門、基礎には最適の本。コーヒーに対する愛情と知識がつめこまれた一冊です。

《珈琲求真》
(井上誠 著:東京書房社)
昭和期のコーヒー愛好家、研究家であった井上誠先生の1974年の著書。
珈琲への愛情が注がれた一冊。私はこの本で古きを訪ね新しきを学びました。

《銀座で珈琲50年》
(関口一郎 著:いなほ書房)
50年という経験と歴史を感じる一冊。文字は大きいが、内容は深いです。
業界のアルチザンが大きく深く語りかけてきます。

《苦味礼讃》
(標交紀 著:いなほ書房)
珈琲豆本シリーズの5冊目。業界の大先輩、標さんのコーヒーを始めた頃が読める貴重な本。著書の中には標さんが師事した襟立さんとの出会いが書かれています。

《序説珈琲学》
(友田五郎 著:光琳発行)
著者の大学用教科書として書かれた本らしいです。順序をおって判りやすく説明されています。

《コーヒー焙煎の科学と技術》
(中村敏郎 他著:工学出版)
コーヒー科学の専門書。コーヒーを科学的に見つめるためには必要不可欠な書籍です。手に入れるチャンスがあれば買うことをオススメします。

《食品の変色と科学》
(中村敏郎 他著:光琳発行)
上記「コーヒー焙煎~」を読むために必要な本。難解ですが、発見も多いです。

《コーヒー文化研究》
(日本コーヒー文化学会)
現時点で(2004年12月)No11まで発行。文化学会員の知識の宝庫。
いつかは必ず発表できる何かを・・・。

《コーヒーが廻り世界史が廻る》
(臼井隆一郎 著:中央公論社)
世界史とコーヒーとの密接な関わり、まさに廻るコーヒーの世界。飲む珈琲としての視点からではなくコーヒーを通した世界への視点を捉えた本。もう一つの(珈琲への)物の見方。

《工学屋の見たコーヒーの世界》
(広瀬幸雄 著:柴田書店)
金沢大学の工学化の先生による視点を変えた(コーヒーの世界)。大いに参考になります。

《エスプレッソ~その味と香り~》
(広瀬幸雄 訳:柴田書店)
エスプレッソとは?良いエスプレッソとは?イタリアの協会で使用されているこの本はエスプレッソの基礎、知識を習得したい方必読。

《コーヒー&紅茶》
(柴田書店)
2号で終わってしまった業界誌。ランダム発行でいいから続いてほしいです。

《珈琲博物館》
(太陽スペシャル)
1986年11月発行の別冊。コーヒーの資料としてお気に入りの一冊。
有名、著名人が皆若いっ!今、業界の最前線で動いている先輩達の資料としても秀逸。